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シネマカルチャーCinemaCulture INTERVIEW






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最多13ノミネートで注目される今年のアカデミー賞の顔『シェイプ・オブ・ウォーター』
ギレルモ・デル・トロ監督が、映画公開(3月1日)とオスカー発表(3月5日)を前に来日記者会見を行った
「僕の映画愛の対象は母国メキシコ風に言えばー日常シネマーいわゆる偉大な映画とは別ものなんだ」

(c)NorikoYamashita
                                                            

●ギレルモ・デル・トロ
今日は記者会見にお越しいただきありがとうございます。日本はわたしにとって大変近しい場所です。今回わたしの好きな作品を持ってこられたことをとてもうれしく思っています。この映画はファンタジック作品で感情と愛を描いています。楽しんでいただければと思います。

Q 今回の『シェイプ・オブ・ウォーター』でファンタジックなラヴロマンスを描こうとしたきっかけと、1960年代を時代背景に選んだ理由は?
●ギレルモ・デル・トロ
愛や異種のものを恐れている、そういう時代に必要だと感じたからです。
時代設定に関しては、現代のままですとひとはなかなか聞いてくれないものです。いまの時代は愛とか感情をあまり感じられない困難な時代だと思いますが、寓話として、おとぎ話として語れば…むかしあるところに、1962年に恋を知らない女性がいました。一方こういう獣がいました…。そういう語り口ですと人々は聞く耳を持ってくれると思ったんですね。アメリカを偉大にしようという言葉がいままたありますが、1962年というのはまさにその時代でもありました。世界大戦が終わって非常に裕福になっていて、将来に希望を持っていた。宇宙開発があったり、ケネディがホワイトハウスにいたり、車や家を買って広告のなかのそういう世界でした。現実的には1962年というのはいまとまったく同じような、人種差別や性差別があり冷戦時代だった。現代と重なる部分も多いのです。
また今日、映画というものが衰退してきていますが、60年代もテレビが出て来て映画が衰退していった。ですからこの映画は映画への愛も込められています。

Q 素晴らしい役者がそろいましたが、キャストの選定に関して聞かせてください
●ギレルモ・デル・トロ
主人公のサリー・ホーキンスに関しては当て書きです。化粧品のコマーシャルから出てきたような若くてきれいな女性ではないほうがいいと思いました。30代後半くらいの女性を描きたかった。彼女は本当に平凡でバスの隣に座っているかもしれないようなひとですが、マジカルな魅力も持っている。
ホーキンスのことは『サブマリン』というイギリス映画で見ました。そこでは脇役だったんですが彼女から目が離せなくなりました。セリフもすごく少なかったんですが、ひとの話を聞いて見る。そこが素晴らしいと思いました。いい役者はセリフをうまく言えるひとと思いがちですが、それは間違った概念だと思います。優秀な俳優というのはよく聞き、よく見る。彼女に会った時に今回の役は口がきけない役なんだ、でも一度独白があって、歌と踊りのナンバーがありますよと伝えました。そして半魚人に恋をしますよと(笑)。そしたら彼女は「グレイト!」って言いました。

Q 水のシーンが多く苦労したのではないでしょうか
●ギレルモ・デル・トロ
オープニングとクロージングの部分というのは、いっさい一滴も水を使わずに撮影しています。これは古い演劇手法で、「ドライ・フォー・ウェット」という名前がついていますが、そういう手法で撮っています。まず部屋全体を煙で充満させます。それから俳優も大道具も小道具もすべてワイヤーで釣ります。ちょうど人形劇、パペットみたいな感じですね。そしてカメラはスローモーションで撮ります。送風機で風を送って水の中のような表現にします。それからビデオプロジェクターで水の効果を投射しているのです。そして水の中の演技のリハーサルをします。触れ合ったら跳ね返るみたいな水の中のような動きを練習します。しかし真ん中あたりに出てくるバスルームのシーンは実際に水の中で撮影しています。ですからふたつの手法を使っています。

Q この映画にどのような思いを込めているのか
●ギレルモ・デル・トロ
この映画はラヴソングのようなイメージと音でシンフォニーを奏でるそういう感じにしたかった。車を運転しているときにすごくいいラヴソングが聞こえてきてボリュームをいっぱいに上げ、自分も歌いだす。そのような気分を感じてほしかった。でもクラシカルな映画という風にも感じてほしい。ハリウッドの黄金時代ですよね。でもちょっとクレイジー(笑)。

Q アカデミー賞のノミネートに関して
●ギレルモ・デル・トロ
『パンス・ラビリンス』に次いで2度目のノミネートになりますが、両方ともに自分らしさを表現した作品なのでとてもうれしく思います。こういう物語の詩の力強さをわたしは信じています。ファンタジーでしか表現できない美しさというものがあると思います。

Q 映画への愛という言葉が先ほど出ました
●ギレルモ・デル・トロ
映画に対する愛を表現したいと言いましたが、その対象は偉大な巨匠の名作ではないんです。たとえば劇場に行って、『市民ケーン』や『雨に歌えば』を観るというように、ものすごく重要とされている映画に対する愛とはまた違うのです。わたしにとっては、メキシコでよく言う「日常シネマ」というのがあるんですが、そういう類のもの。自分がどん底まで落ち込んだ時に、ふと見たあまり重要とされていない喜劇やメロドラマ、ミュージカルで気持ちが上向きになることがあるんです。そういう映画にこそわたしはすごく愛を持っています。そういう映画は観客とつながるという意図しか持っていません。それらには非常にエモーショナルな部分があると思います。

                                        (2018年1月30日 東京・紀尾井町 赤坂プリンス クラシックハウス)




ギレルモ・デル・トロ監督の『パシフィック・リム』(13年)に出演している女優の菊地凛子が駆け付けた。右は会場となった赤坂プリンス クラシックハウス(旧李王家・東京邸)





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